QUARTZというメディアはインターフェース、内容ともに良く出来ている。

QUARTZは米の老舗The Atlanticで馴染みのAtlantic Mediaが展開するウェブメディアである。完全にウェブオンリーで展開されていて、これからのメディア事業のロールモデルとなりうる存在だろう。

サイトを訪れると現代に相応しいメディアとしてしっかりとデザインされていることがわかる。まず目に入るのは右カラムの記事の大きな見出しとビジュアル。スクロールすれば、そのまま次々と記事を閲覧することもできる。トップと個別記事ページに違いはなく、両ページは同じ機能と役割を持っている。ページを切り替えるという旧来のメタファー(PVをアップさせ広告収入を得るためでもある)はここには存在せず、TwitterやFacebookのようなストリーム型になっている。そして、それぞれの記事は読みやすいボリュームに抑えられている。記事と記事の間には閲覧を邪魔しすぎないネイティブアドへのバナーが置かれている。

アメリカの新聞の平均的な記事の長さは、紙面の上から下までの一段の記事で、語数にして700語台である(日本語に訳すと2千数百字になる)。だが、『クオーツ』は、500語よりも短い記事と、800語よりも長い記事に特化している。

この哲学に行き着いたのは、トラフィックを分析したところ、デジタルでよく読まれるのは短い記事か長い記事のどちらかだという分析結果を得たからでもあり、700語台の記事は無駄が多いと考えるからでもある。

出展:現代ビジネス

基本的にユーザーに求められる動作はスクロールのみ。このストリーム型というアプローチはユーザーに選択肢を与えない。これは悪い意味ではなく、ユーザーに選択するストレスを与えていないというポジティブな意味だ。極論かもしれないが、少し考えてみてほしい。我々が見たいのは記事のタイトルだろうか?いいや違う。我々が見たいのは記事そのものであってタイトルではないはずだ(目につくタイトルは記事の重要な構成要素に変わりはないのは確かだが)。いちいちクリックする手間もなく、手軽にコンテンツを消費することができる。このストリーム型メディアのコンテンツ消費体験はソーシャルメディアに慣れたユーザーにとって自然と受け入れるはずだ。

もちろん左カラムのサイドバーから読みたい記事だけを選択することもできるし、ナビゲーションバーから「オブセッション」と名付けられたカテゴリを選択することもできる。このオブセッションはQUARTZの大きな特徴の一つだ。例えば「Design」というオブセッションを選択すると、Desginというテーマに沿った記事が表示される。それらは経済、デジタル、フィジカル、家具と様々な角度から述べられてたものだ。そのオブセッションついて政治、経済、国際と様々な角度からテーマを深堀りすることが可能になっており、ユーザーの理解を促している。ブログ「メディアの輪郭」の言葉を借りるなら“ニュースを専門分野ではなく、事象で捉え、点ではなく、面でのコンテンツ発信を意識”しているということになる。一方で速報的なニュースは他メディアの記事をアグリゲーションすることでカバーしている。

この設計の根底には重要なのはPVではなく、エンゲージメントだと思想がかいま見える。BUZZ FEEDも単なる釣りではなくジャーナリズムとしてコンテンツを強化するようだが、脱PVの流れは世界的に大きくなっている印象だ。そのため、藤村厚夫氏がブログで述べてるように、海外メディアではエンゲージメントのためサイトの表現形式を大きく見直す動きが見られる。その具体策のひとつがレスポンシブウェブデザインだ。

QUARTZもまたレスポンシブウェブデザインで制作されており、ディスプレイサイズによって体験を制限されることはない。見た目も大きく変わらず、モバイルでも変わらずスクロールするだけでOKだ。必ずしもレスポンシブウェブデザインがマルチレイアウトに最適な訳ではないが、QUARTZの場合、どのデバイスでも十分な体験を提供していると言えそうだ。現代においてモバイルからのアクセスを最大限に意識し、多様なスクリーンサイズやデバイスに対応するサイト構築は必須である。

もちろんそれらは中身があってこそだ。内容のない記事を読む体験を素晴らしく整えても意味が無い。整えるのは最後で良いのだ。だが、はじめからこのようにデザインやアートやテクノロジーの力を組み合わせることで全く新しい体験を提供できる可能性が生まれる。革新というのは基本的に外から訪れるものであるらしい。それはただやってくるのではなく、視点と視点がミックスさせることで発生するものだ。既存の枠組みを取り払い、視点をミックスすることによって斬新なアイデアが生まれ魅力的な体験を提供することができる。デザインやアートはメディアを救う(作る)ことがある。ユーザー目線と言い換えることもできるだろう。

以前もどこかで触れたが、TEDのジャチェック・ウツコは問う「デザインは新聞を救えるか?」にも通ずることろがあるかもしれない。

何もQUARTZが革新的であると言っているのではない。その成果はこれからはっきりしていく。ただここで述べたいのはメディア企業は自分自身の現状や、これからしていくべき仕事を捉え直し、外の社会と自分の関係を捉え直す必要があるということだ。「形式は常に機能に従う」とは建築家ルイス・サリヴァンの言葉だが、メディアデザインも例外ではない。インターネットという機能を改めて考えることが、デジタルネイティブのメディアが成功するための第一歩だろう。

さて、音楽メディアはどうだろうか。

参考
Web メディア とるべき5つのデザイン戦略 | 藤村厚夫 Media Disruption
デジタル絶好調の米 Atlantic が打ち出す、近未来 Webメディア “QUARTZ” | 藤村厚夫 Media Disruption
ストリーム型メディアの勃興 Webメディアの転換点 | 藤村厚夫 Media Disruption
新興ビジネスメディア「Quartz」、広告売上がこの1年で426%増加 | メディアの輪郭
月間読者500万人超えたデジタルメディア「Quartz(クオーツ)」が2014年に見据えること | メディアの輪郭
記者に「専門分野」は求められなくなるのか? 「Quartz」が志向する未来のメディア像 | メディアの輪郭
アメリカで躍進中のビジネスニュースサイト『クオーツ(QUARTZ)』 その編集方針と経営戦略を聞いた | 現代ビジネス

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