Spotifyがいよいよ日本でサービスを開始するらしい。ストリーミングサービスについて改めて個人的な見解を、アーティストに対してと、サービス事業者に対して記しておきたい。

最後に音楽ストリーミングサービスを考えるにあたっての参考記事を掲載したので、是非見てみて欲しい。
→あまりにも多くなったので分割します。こちらをご覧ください→「Spotifyに関する記事一覧

アーティスト

アーティストにとってこの手のサービスとどのように向きあえば良いのだろうか。ストリーミングサービスから得られるロイヤリティについては散々議論されているが、正直多くのアーティストにとって収益になるとは言い難いのが現状だろう。以下は特にインディペンデントのアーティストにとって考えたものになっている。

重要なのは自分の音楽活動のどこにこれらのサービスを位置づけるのか、ということだ。すでに世に幅広く名の知れているアーティスト以外にとっては再生のロイヤリティで稼ぐのは難しい。Daft Punkの「Get Lucky」がSpotifyで1億回も再生されたのは、Daft Punkだからこそである(といってもそれだけで制作費をカバーできる金額ではない)。「Get Lucky」は決してSpotify内で初めて認知を獲得したわけではないのは誰でも分かる。しかし「Get Lucky」はSpotifyにあったから、Spotifyで1億回も再生された。

Spotify-Daft-Punk

多くのアーティストにとってストリーミングサービスの有効な活用方はディスカバリーに特化することだ。

例えば、友人からあるアーティストを進められたとしよう。そのアーティストを聴いてみようと思い、アーティスト名で検索をする。その際、きっとYouTubeやGoogleを利用するだろう(まぁGoogleで検索してもYouTubeの動画が結果に表示されるのでいずれにせよYouTubeを見ることになるはずだ)。

あるいはモバイルのミュージックアプリで検索する(今のApple App Storeのミュージックカテゴリを見るとよく分かるが、上位にランクインしているのはYouTubeの音楽を再生するアプリばかりだ)。

残念ながらユーザーの気は短い。YouTubeで検索して、そこに存在していなかったらアーティストの公式サイトやその他の音楽サービスで見つけてみようと思うだろうか。恐らく思わないだろう。わざわざiTunesStoreを立ち上げるだろうか。いや、しないだろう。YouTubeにないということは、今や存在していないのと同じようなものになっている。

ここので述べたいのは楽曲は探される場所にあるべきではないか、ということだ。

KKBOXやMusic Unlimitedなどの楽曲ストリーミングサービスは国内ではまだまだ認知されておらず、音楽を発見する第一の選択肢にはなっていない。Spotifyが日本でそうなる根拠もまだ見当たらない(個人的にはこの手のサービスが流行るのかどうかという話には否定的だ、そもそも何を基準に流行っていると言えるのか)。

だが、それぞれ、そうなるポテンシャルを秘めているのも事実だと思う。もしそうなった場合、そこに楽曲がないとなるとそもそも認知されない/聴かれないということが起こりうる。ここで述べたいのは、そうならないように音楽ファンやネットユーザーに聴く機会を広く与えてはもらえないか、ということだ。

全ての楽曲を聴けるようにする必要はなく、そのアーティストの楽曲がそれなりに聴け、関連する情報を得ることができればそれで良い。さらに聴きたい、もっと知りたい、ライブに行きたい、といった欲求を生むフックとして機能すれば良い。

新たなサービスが登場すると、それを利用するユーザーも出てくる。そのユーザーに対して機械損失とならないように、楽曲を用意しておくのはどうだろうか。今では海外のメジャーアーティストでも、YouTubeと合わせてSoundCloudを利用するケースも多い。SpotifyやKKBOXもYouTubeやSoundCloudと同じような感覚で良いのではないだろうか。あくまでもリスナーに発見してもらうための入り口、プロモーションの場として利用する。

また、配信するだけでは十分ではない。自分の音楽活動の中で各サービスの立ち位置を明確にし、リスナーの体験を想像し、そこから実際に音楽活動を続けるためのお金を稼ぐ「戦略」を描くことが重要だ。しかし、現段階のサービスは、アーティストに対して配信のその先をイメージできるような設計になっていないのも事実

例えばソーシャルメディアアカウントへファンを導くだけでも大分違うはずし、グッズやライブチケットの購入が国内でも可能になれば、Spotifyは音楽活動の重要なエンジンになるだろう。

サービス事業者

以下、かなりフワフワな話。
アーティストとユーザーのバランスを取るのはとても難しいことだ。アーティストから楽曲の提供がなければユーザーは増えないし、ユーザーがいなければ楽曲は配信されない。しかし幸い、今のところ楽曲はどのサービスもそれなりに揃っていると言えるだろう。あとどうやってユーザーを増やし、プレミアムユーザーに育てていくか、ということを考えなければならない。でなければ、いつまでもアーティストから否定的な目で見られ、音楽活動のエンジンにはならない。作り手を尊重しなければ、音楽サービスは成立しない。

・そもそも音楽を聴いてもらう
ここで重要なのはそもそも音楽を聴くという空気や習慣を作ることだ。そして音楽体験は楽しいと思ってもらうこと。これはサービス事業者だけではなく、音楽制作・提供に関係する全ての人に関わるテーマであり、ネットの中で完結するものではない。例えば、マスメディアの利用であったり、権威あるアワードだったり、他のコンテクストとの融合が考えられる。いずれにせよ、リスナー目線、生活者目線をもち、長い目で丁寧にやる必要がある。

また、空気や習慣を作るための入り口というのはストリーミングサービスのような音楽サービスよりも、TwitterやLINEといったコミュニケーションサービスやリアルの場に設けることになるのだろう。

・リプレイス
すでに音楽を楽しんでいる人はたくさんいる。先ほど触れたApp Storeのランキングように無料で好きなだけ聴けるサービスは多い。SoundCloudだってその1つだ。単純な考えだが、YouTube(というかYouTubeを利用した楽曲再生サービス。一番の競合はここじゃないだろうか)よりも聴きやすく、音が良く、UIが最適化されており、情報が充実していればリプレイスすることはできるかもしれない(とはいえ、最近のYouTube再生サービスはとても良くできている…)。

音楽を聴くという空気や習慣を作っても、それが楽しいと思ってもらわなければ残念な結果になりかねない。Spotifyが頭1つ抜けていると感じるのはたくさんの楽しみ方を提供している点にある。Pitchfork / NME / The FADERといった音楽メディア、Hype Machine / Reddit Tunes / Twitter #musicといったキュレーション、歌詞表示のTuneWiki、映画のサントラを集めたatflck Soundtrack、再生したアーティストのライブ情報を届けるSongKickなどサードパーティが音楽体験を拡張している。
Sporify Apps
Spotifyならサードパーティのアプリ、KKBOXなら「一緒に聴く」など、ただ聴くだけではない、体験の広がりを上手く見せることができれば、リスナーはYouTubeを使用した楽曲再生アプリから移ってくれるかもしれない。

いちいちログインしなくてもそれなりに聴取できるようのも必須だ。ストリーミングサービスから楽曲をシェアしても、ログインしなければ聴けないのならば何の意味もない。

・プレミアムユーザー
とにかくユーザーいないと、ユーザーを育てないと成り立たないモデルだ。

アメリカを例にとると、Spotifyのプレミアムユーザは、年間最低でも120米ドル支払うので、「単にダウンロードする人たち」よりは有難い消費者です。一方、ダウンロード購入する人が年間で音楽にかける費用は、平均で60米ドル以下です。そのため、もし4000万人いるアメリカのダウンロード購入者がSpotifyを利用するようになれば、アーティストが自分の曲で稼げる額は、今の倍になるというわけです。

出展:「Spotifyでアーティストは2倍稼げる」ーーSpotifyアジア太平洋地域新市場部門トップが語る | THE BRIDGE

4000万人が使ってから言って欲しいし、重要なのはダウンロード購入者に使ってもらうことよりも非ダウンロード購入者に使ってもらうことだろう。ダウンロードで買ってくれるならそれはそれで万々歳だ。

まぁしかし、Spotifyユーザーの4分の1がプレミアム会員というのは素晴らしい成果だ。

正直ここに関してはどうすれば良いのか分からない。ただ綺麗事ではあるが、広告が嫌と制限が嫌とかではなく、ポジティブな理由でお金を払いたいものだ。


たくさんの選択肢が生まれることは良いことだと思う。しかし、その結果クソみたいな縄張り争いが生まれるのであれば幻滅だ。

今こうやって音楽を聴くことができるのも、心を奪われるのも、交友関係が広がるのも、全て作り手がいるから。作り手がいなければ何も成立しない。何よりもまず作り手を尊重するサービスが使われることを祈る。アーティストも音楽ファンもハッピーになる仕組みができて欲しい。

しかしこのSpotifyに対する期待というか注目はいったいどういうことなのだろう。もうすでに国内にはレコチョクBest、KKBOX、Music Unlimitedなどがあるのにも関わらず。みんな一度は使ったけど、イマイチでSpotify待ちなのだろうか。それともフリープランがないと、そもそも使わないということなのだろうか。単純にサービスのPRが上手くいっていないのか。謎は深まる…。

そういえばMusic Hack Day、デザイナーとして参加しますので、行かれる方当日遊びましょう


Spotifyやストリーミングサービスについて、いろんなサイトから集めた記事の一覧です。ご参考まで。→「Spotifyに関する記事一覧

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