とりあえず最近オススメされて聴いた、東京在住の男性によるソロプロジェクトSerphというアーティストが凄く良かったという報告。なんつうかね、すごく東京的な感じがしますよ。ファンタジーっていうかRPGみたいっていうか、アニメ映画みたいっていうか。
昨年のインタビューですが面白かったです。
電子音楽界の寵児となったSerphが語る、別人格Reliqについて
ソーシャル時代に音楽を“音楽”7つの戦略
さて。一読しての率直な感想を書くと、「いつの話をしているんだろう」ですね。今この話をしなければならないほど日本の音楽ビジネスには遅れがあるのでしょうか。
僕は別に音楽ビジネスに関わっている人間ではないので、中の事情は知りませんし、薄っぺらい感情論かもしれない。でも、いくら日本の音楽市場が特殊とはいえ、今この論題は遅れているのではないでしょうか。誰に言ってるというよりも、この現状を嘆いているという感じです。Radioheadがリスナーに価格決めさせた「In Rainbows」は07年、BandcampやSpotifyが世に現れたのは2008年。それなのに、未だこのテーマ。どれだけ時間かかっているんだろう。日本の市場が特殊だとか、日本の市場だけでやっていけるとか、そんな話はもう聞き飽きたし、そのまま生き残っていけるか言えば、ノーだろう。
「遅れている」と誰かに言ったところでしょうがないから、本書の著者である方々を中心に動ける人がどんどん柔軟に動いて発想を具現化していくしかないでしょう。
PART1 ソーシャルメディアが音楽をドライブさせる
ここについては特に感想はない。というのもこのソーシャルメディアをマーケティングや音楽体験に利用することに以前から興味があったし、このブログでもちょくちょく書いていたからだ。それに著者のブログ「THE GREAT ESCAPE」の読者の1人でもある。
この部分に興味があるのなら「音楽の明日を鳴らす」を読めば良いだろう。というか興味がないのはマズイので読むべきだと思う。「音楽の明日を鳴らす」については以下のエントリを参考にして欲しい。
≫【ソーシャルメディア時代の音楽ビジネス〜書評〜】音楽の明日を鳴らす
PART2 ニュースをどうやって作るのか?
「見出しが命」というのはまさにこの本のタイトルがそうですね。何の為に、誰に向けて、どんな手法で、どのメディアを使うかは、ニュースを作るに関わらず、プロモーション全てにおいて言えることだ。
音楽に関するニュースに出会った時、なにより残念なのはYouTubeへのリンクのひとつさえないことだ。ネットメディアの特性を活かし、ニュースからすぐに音楽と聞ける状態にするのは大前提ではなかろうか(もちろんメディア側の表現方法にもよるのだが)。これはかなりのチャンスを逃している。音楽との関与度を高めるために、音楽のニュースであればまず聴ける状態にする必要はあるのではないだろうか。
…といっても、そのニュースを読む人はすでにそのアーティストやイベントについて知っている人だと思うので、そうではない人にどうやって惹きつけるのか。例えば、その鍵になるのは「リレーショングラフ」「ミュージックグラフ」だろう。
PART3 PV・MVの可能性
PV/MVこそ、ソーシャルメディア時代に適したアプローチ方法だと思う。だってもうMTVに加入するなんて必要ないし、すぐに共有することができるのだから。最高じゃないか。
この本に載っていない面白いミュージックビデオの例をご紹介したい。
Arcade Fireのミュージック・ビデオはかなりインタラクティブに作られている。「The Wildeness Down Town」という作品はその1つだ。HTML5、グーグルマップ、複数のウィンドウ、描写を駆使し、圧倒される体験ができる。もはやビデオではない。その凄さをリスナーはどんどんソーシャルメディア上でシェアしていった。Arcade Fireのトライブを越えてシェアされたのだ。
同じくArcade Fireの「Sprawl II (Mountains Beyond Mountains)」もすごい。こちらはウェブカメラが起動して、視聴者の身体の動きとシンクロした映像が楽しめる。
YouTubeでのフル視聴がもし有料配信に支障をきたすのであれば、YouTubeの外で、YouTubeにはできないことをやれば良い。どうせウェブ上で公開するのなら、ただ見せるだけではない、”体験”を提供して欲しい。と言ってみるのは簡単だが、なかなかハードル高いですね。
YouTubeのショートバージョンは最悪。ゴミ。買おうなんて絶対思わない。聞こうとも思わない。ストレスでしかない。
PART4 ソーシャルメディアありきでレガシーメディアを考える
本に書かれているように、組み合わることが重要。「もうマスはダメだ、ソーシャルメディアだ!」と言うのはただの思考停止だ。それぞれのメディアに役割を見出し、目的に向けて、そのメディアを戦略的に利用することで広く音楽を届けることができる。
PART3にも関連するが、バスキュールが手がけたソニーとTBSの「MAKE TV」は非常に面白い企画だったと思う。テレビとソーシャルメディアを活用したインタラクティブな事例だ。参考までに以前書いたエントリ『ロンドン五輪と”ながら視聴”』を紹介。
PART5 ディストリビューションの新しい形
SpotifyやRdio、Deezerといったストリーミングサービスが日本でも上手く行くのか?という議論はナンセンスだと思っている。レンタルショップやCDショップは一度頭から消して欲しい。全てを一度忘れて欲しい。
その上で、どういう音楽を、誰に届けたいか、誰のために届けるのか、そこだけを考えて欲しい。ストリーミングサービスが上手くいくのか、流行るのかという議論は手段を目的化している。「自分たちがどうしたいのか」という理念がはっきりしていれば、どのツールを使えば良いか自ずと見えてくるのではないだろうか。理念に適した方法を取れば良い。既存の関係性が云々とかそういうのは知らん。綺麗事かもしれないが、一度立ち返って欲しい。
WonderGOOの事例は素晴らしいですね。音楽ってオンラインtoオフラインもオフラインtoオンラインもオンライン×オフラインもどっちでもイケるじゃないですか。やり方いっぱいあるね。
本章を担当した山口氏によるDrillSpinのコラムは大変参考になる。是非一読を。
iTunes Store は日本で失敗しているんだよ~「日本の音楽市場状況2012」・週刊ダイヤモンド「アップル特集」の誤り~
続・iTunes Storeは日本では失敗してるんだよ~日本の音楽市場の特殊性の功罪。歴史から学べ、もう次のフェイズが始まっている。<前編>~
続続・iTunes Storeは日本では失敗しているんだよ~音楽ビジネスの未来は明るい?<とりあえず完結編>~
PART6 増していくライブの重要性
CDはだめだ!次はライブだ!!っていうゼロサムは本書に書かれているようにいずれまた壁にぶつかるだろう。歴史を振り返ってみると、レコードはライブ演奏を録音したものだった。ライブをシェアするための手段がレコードだった。それはやがて逆転し、ライブはCDを売るプロモーション手段となった。そして音源が売れなくなった現在、ライブが本来の立ち位置に戻りつつある。アーティストと受け手がダイレクトに交わる場所がライブであり、それはコピーすることができない「体験」になる。
ですから、ライブが終わったらそれで終わりではなく、【共有】への仕組みと仕掛けをぜひ考えて欲しいと思います。
音楽人インタビューで中西氏が述べているように行政への働きかけは必須だろう。何やっても最終的にここに引っかかる気がしている。行政に働きかけようとしても、個人では無理だし、行政側に話を聞く意欲があっても誰を呼べばいいか分からない。その為、中西氏がライブ・エンタテインメント議員連盟を発足させたように、団体にしておく必要がある。津田大介がMIAUを作ったのもそんな理由だったと思う。
PART7 成果報酬型プロモーションへ
ソーシャルメディアの成果報酬型アカウント運用は実例と具体的な数字を出して欲しかった。あんまりイメージできていない。
プロモーションをどうするか。どう見せて、どう広げるか、そこまで含めて作品だと思っています。だからこそ、僕はアーティストが主体的にプロモーションに関わっていって欲しい。自分の曲なのだからどう見せ、聴かせ、広げるかは自分で考えるべきだろう。もちろん、全てアーティストだけでできるものではない。個人や企業にお願いして、密接に関わりトータルでプランニングする必要もでてくるだろう。
だが、プロモーションを考えられるアーティストであれば、プロモーションだけでなく著作権の知識もあれば、その曲はアーティストの熱量を維持し、ダイレクトにリスナーに届けられるだろう。
最後に
本書を読んだプロモーターやアーティストがどう思ったのか、聞いてみたいですね。みんなが具体的にどういう戦略を考えるのだろう。
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