Jamila Woods - HEAVN

シカゴのシンガー/詩人、Jamila Woods(ジェイミーラ・ウッズ)。2016年7月にリリースされた彼女のソロデビューアルバム『HEAVN』は黒人であること、女性であること、そしてシカゴを愛で包み、スムージーに歌った極上の一枚。無料ダウンロードできるので今年のうちにチェック!

Jamila Woods – Blk Girl Soldier

HEAVN』には音楽シーンの最先端で存在感を放っているシカゴの重要人物たち、Chance the RapperをはじめとするDonnie Trumpet & The Social Experimentの面々、Noname、Sabaのほか、Closed SettionのレーベルメイトであるoddCouple、Kweku Collinsらが参加している。当然相性はバッチリで、Jamila Woodsのひらひらと舞うようなボーカルと社会的なリリックをストレートに伝えつつ、ポピュラーミュージックとしてとても聴きやすい。攻めすぎず、もちろん古くもない、ちょうどよい音になっている。

ファーストヴァースをThe Cureの「Just Like Heaven」から引用して愛を歌った「HEAVN」でThe Rootsの「Eve」を、シカゴに捧げられた「LSD」では同じくシカゴのシンガーDonell Jonesの名曲「Where I Wanna Be」を、Donnie Trumpetが参加した「Breadcrumbs」ではStereolabの「The Flower Called Nowhere」をサンプリングしたりと小ネタも楽しめる。アルバム終盤の「Holy」では聴き覚えのあるゴスペルテイストが顔をのぞかせており、なんだか安心感さえある。

Jamila Woodsとこの界隈のコラボレーションは今回が初めてではない。Jamila Woodsは元々M&O(Milo & Otis)というデュオで活動しており、2012年のアルバム『The Joy』収録の「Lift Up」やDonnie Trumpet & the Social Experimentの「Sunday Candy」でChance the RapperやDonnie Trumpetと共演している。

Donnie Trumpet & the Social Experiment – Sunday Candy

この界隈については国分純平氏のブログ「キープ・クール・フール」に詳しいのでそちらをご覧いただきたい。
Donnie Trumpet & The Social Experiment “Surf”とアルバムをより楽しむための関係者名鑑(その1)
Donnie Trumpet & The Social Experiment “Surf”とアルバムをより楽しむための関係者名鑑(その2)
Donnie Trumpet & The Social Experiment “Surf”とアルバムをより楽しむための関係者名鑑(その3)
Donnie Trumpet & The Social Experiment “Surf”とアルバムをより楽しむための関係者名鑑(その4)

今作はKendrick Lamar『To Pimp a Butterfly』、Beyoncé『Lemonade』、Blood Orange『Freetown Sound』と続く、Black Lives Matterに共鳴する作品とも捉えることができる。

ブラウン大学で黒人文化(Africana Studies)と舞台芸術を学んだ彼女は、Lucille Clifton(ルシール・クリフトン:詩人)とGwendolyn Brooks(グウェンドリン・ブルックス:シカゴ育ちの詩人、「アニー・アレン」でアフリカ系アメリカ人女性初のピュリッツァー賞を受賞)の二人から大きな影響を受けたという。自身も詩を唄いはじめ、黒人、女性、シカゴを題材としてきた。彼女の詩は詩集「The Breakbeat Poets: New American Poetry in the Age of Hip-Hop」などに収録されている。

冒頭で紹介した「Blk Girl Soldier」はそんな彼女のバックグラウンドが色濃く表れた曲で、Black Girl Magic(ブラック・ガール・マジック:黒人女性の美しさ、パワーを捉え直すオンラインのムーブメント)、Harriet Tubman(ハリエット・タブマン:黒人解放、女性開放の運動家)やRosa Parks(ローザ・パークス:公民権運動の活動家)らを引用している。彼女たちは “Freedom Fighter” であり、 “She don’t give up / She don’t don’t don’t don’t don’t give up” と歌う。このあたり、Chance the Rapperが『Coloring Book』収録の「Blessings feat. Jamila Woods」で “I don’t make songs for free, I make ‘em for freedom” とラップしたのを思い出す。表現は違えど、彼女もまた自由のために歌う。

Jamilaのアイデンティティが詰められた『HEAVN』は歴史と文化の継承し、音楽史を更新する重要な一枚だが、そういったことを差し引いても聴きやすい良いアルバムだ。


Jamila Woods
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