Taylor Swiftがtumblrにポストした抗議を発端に起こったApple Music論争。AppleのEddy Cue上級副社長は考えを改め、3ヶ月間のフリートライアル期間も楽曲の使用料を支払うことを発表しました。これをキッカケにXL Recordings、Rough Trade、4AD、Matador Recordsを傘下に収めるベガーズ・グループを含むWIN(Worldwide Independent Network)、ベルギーの独立系音楽事業者PIASMerlinもAppleとサインしたと伝えられております。これでだいたいインディーは網羅的な感じになりました。まぁ一応丸く収まったということで。ちなみにベガーズ・グループはデジタル売上の40%をSpotifyなどストリーミングが占めているそうですよ。

Apple Exec Eddy Cue: Why Taylor Swift Was Right | RollingStone
Apple Music Signs Deal With Worldwide Independent Network, Including Beggars Group (4AD, Matador, XL, Rough Trade) | Pitchfork
Apple inks deals with indie label Beggars and rights group Merlin for its streaming music service | The Next Web
Apple Music reportedly inks deals with Beggars Group, Merlin | FACT
Apple Music Signs Beggars Group, Merlin: Sources | Billboard
Apple Music、2万以上のインディーズレーベルと契約 アデルやレディオヘッドも参加へ | ITmedia ニュース

Taylor Swiftは新たにアルバム『1989』をApple Musicで配信すると公表。ただしApple Musicに限らず他のサービスでも配信されるようで、リリースから随分立ち、売上も落ちているので再び注目を集めようという極めてビジネス的な判断だと思います。

で、その無料期間の支払いですが、The New York Timesによれば、1回の再生あたり0.2セントだそうです。この0.2セントには著作権料や出版元への支払いは含まれておらず、Billboardによるとさらに0.047セントが上乗せされ、合計0.247セントの支払いになるとのことです。これは日本のサービスも含むその他のサービスと同価格帯となっています。また前回もご紹介しましたがテックメディアre/codeは有料期間のレーベルなどへの支払いは収益の71.5%が当てられるとレポートしています。

Apple Signs Thousands of Independent Labels in Royalty Deal | The New York Times
With Music Launch Looming, Apple Still Looking to Sew Up Indie Publishing Deals | Billboard
Here’s What Happens to Your $10 After You Pay for a Month of Apple Music | recode
Apple Music Reportedly Paying Artists $.002 Per Play During Three-Month Trial | 2DBZ
アップル、無料期間の楽曲印税はいくらに? | THE WALLSTREET JOURNAL

一方でライバルとなるGoogle Play Musicは、広告ありの無料プランを発表しました。有料版はApple MusicやSpotify同じく月額9.99ドル。楽曲数は3000万曲とこちらもだいたい同じ。Google Play Musicの無料プランは昨年7月に買収したプレイリストサービスSongzaをベースとしたキュレーションラジオ型となっています。

Music for everything you do | Google Official Blog
「Google Play Music」に無料版登場 広告付きでSongzaラジオがメイン | ITmedia ニュース
Google、手作り音楽プレイリストアプリのSongzaを買収 | ITmedia ニュース

まぁしかしTaylor Swiftの抗議からAppleの支払い決定まで茶番感も否めず、「Leaked Emails Prove Taylor Swift And Apple In Cahoots」といったネタ記事まで出てきています。2億人の登録ユーザーを有するPandoraのCTOでファウンダーのTom Conradは「SpotifyもYouTubeもPandoraも無料期間はロイヤリティを払っている、っていうかTaylorはYouTubeには何も言わんのか」と荒れておられます。TaylorがSpotifyから楽曲を引いたのはビジネス的判断の結果であり、彼女がSpotifyから楽曲を引いても十分な収益を得られるアーティストであるということは忘れてはいけません。もちろん本人は本当に音楽の価値を信じ、その対価について深く考えています。ですが、自分の楽曲がどこにあって、どういう聴かれ方をされていて、レーベルへの支払いはいくらで、そのうち自分に入ってくるのはいくらか、ということにアーティストはもっとシビアになっても良いのではないかと思います。

Sorry, Taylor Swift: 3 months of Apple Music royalties won’t even buy you a sushi lunch | Mashable
Taylor Swift Is A Hypocrite And Apple Has Lost Its Way | DIGITAL MUSIC NEWS
Former Pandora CTO: The feud between Taylor Swift and Apple is ‘mostly theater’ | BUSINESS INSIDER
Updated Taylor Swift photo contract gives singer power to destroy equipment | FACT
Taylor Swift responds to photographer who accused her of hypocrisy over Apple Music | FACT

さて、そもそもこのようなサービスは日本で定着するのでしょうか。
Why Apple and Spotify Can’t Get a Foothold in Japan」という記事がInc.comで出ております。これをライフハッカー日本版が「日本でストリーミング型音楽サービスが普及しない3つの理由」という微妙なタイトルに翻訳しており、誤解を生みそうですが原題の通り「AppleとSpotifyがなぜ日本で基盤を築けないのか」という視点で読むとライセンス交渉の難しさ、利益率の高いCDの売上は参入のハードルになるというのは正しいと言えます。ただし、それは普及の話ではなく、市場参入の話です。すでにAWAとかLINE MUSICとかKKBOXなどがローンチしていますし、App Storeのランキングを見れば分かることですが、ストリーミング型音楽サービスはすでに日本でも定着しているとも言えます。定着していると書きましたが、それは記事の3つ目に挙げられているYouTubeの存在によるものです。YouTubeもストリーミングです。

YouTubeがストリーミング型音楽サービスとして定着しすぎなのです。これは日本に限った話ではなく、YouTubeとそのサードパーティは結果的に、音楽を発見し消費するという行為を全てその場で、無料で、たまにグレーな方法でユーザーに提供しています。今YouTubeやサードパーティアプリで音楽を聴いているユーザーが、YouTubeにお金払ってでも聴くか。答えは「NO」でしょう。しかしアーティストからするとYouTubeに挙げないとそもそも認知されないという状況も起こる。Apple MusicやAWAがリプレイスすべきなのはYouTubeとそのサードパーティアプリであり、重要なのは無料で聴いているユーザーに音楽の対価について考えさせられるかどうかです。このあたり、以前からこのブログでは述べてるので割愛しますが、iPhone、iTunesを持っているプラットフォーマーとしてのAppleは強大なので、これをどう活かすかという話になってきます。まず使わせる、そして滞在させるためにどうするか。単純な話、OSにプリインストールで最初無料というのが、まず使わせるための施策であり、Beats 1とConnectというオリジナル機能で継続させるということになります。結局こうなってくるとアーティストの囲い込みという不毛な争いが始まりそうで、それはそれで不安です。

そういやBeats 1の最初のゲストはEminemになったみたいです。


P.S.
コンテンツはデータに変換されると複製されます。複製され、無料で公開されているものにお金を払うわけがない。だったらコピーできなければ良い、購入しなければ手にはらない体験を作っていけば良い。じゃあコピーを潰そう、というのがナップスターの一件だったわけですが、ストリーミングサービスの発想はそうではありません。データになるのは避けられない、複製も避けられない、潰してもイタチごっこ……であればオリジナルデータをサーバーに置き、アクセス権をもっているユーザーのみに公開しよう、そもそもコンテンツをコピーできない設計しよう、というのがストリーミングサービスです。ソーシャルゲーム等も同じモデルです。サーバーへのアクセス権を売るにビジネスです。オリジナルはサーバーにあるからコピーできない。コピーできないからお金を払う。

というのがよく言われる「所有からアクセス」の意味だと思うのですが。この理屈で言ったらこのアクセスモデルはCD、DL、レンタルと共存しない気がするんですよ。一斉に転換しないと意味ないというか。コピーできる状況は残っているわけで。

AppleやGoogleがパトロンになって無料で音楽を配信するみたいな世界、ありうるのでは。

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